研究概要 |
過去2年間では,電子プール的な機能をもつクラスター錯体の開発を目指し,Ru複核および三核錯体について,8-10電子を可逆的に出し入れできる錯体を合成するとともに,複核錯体内のオキソ架橋へのプロトン付加と連動させることにより,出し入れする電子の数やその電位を制御できることを示した.本年度は,オキソ架橋複核Ru錯体のプロトン関与酸化還元挙動の詳細を明かにすると共に,この錯体の有機化合物の酸化還元反応への応用を試みた.以下に要点を述べる.(i)水溶液中でのプロトン関与酸化還元反応.[Ru_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2(2,2'-bipyridine)_2(L)_2]^<2+>型(L=2-methylimidazole(Meim))について,pHvsE_<1/2>のdiagram(Poubaix diagram)を求め,これとアセトニトリル溶液中でのデータを組み合わせて,(III,III),(III,II),(II,II)の各状態でのオキソ架橋のpK_aを,それぞれ2,13.5,>20と評価した.また,(II,II)での2ケ目のプロトン付加のpK_aが5.2であることもわかった.(ii)プロトン関与酸化還元の構造.アセトニトリル溶液中でのサイクリックボルタモグラム(CV)のシミュレーションにより機構を考察した.弱酸存在下での1段階2電子移動は,(III,III)から1電子還元された後,(II,III)の状態でプロトン付加が起こりさらに還元が進む機構が妥当であることがわかった.(iii)有機物との反応.(II,II)の状態は極めて強いLewis塩基であり,α-ケト酸からプロトンを引き抜く.(II,II)を生ずる電位に設定し,CH_3Iを共存させたところα-ケト酸のメチル化が速やかに起こった.また,(II,III)を生ずる電位に設定し、酸存在下,シクロヘクサノンが触媒的に還元されることも明かとなり,Ru_2(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型錯体が有機反応への応用に有望なことがわかった.
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