これまでの研究では一連の球状蛋白質のリジン残基の反応性に対する圧力の効果の検討を行ってきたが、本研究においては球状蛋白質のシステイン残基の反応性に対する圧力の効果について検討した。クレアチンキナーゼ(CK)は脊椎動物の各組織に分布する酵素でありその生体内における機能の重要性から、多くの知見が得られている。それによればCKにはジスルフィド結合をしていない単独のシステインが四つあり、そのうちの一つ(Cys-282)が酵素活性に関与している。活性に関与するシステインの化学試薬に対する反応性は天然状態でも高いが、他の残基の反応性は乏しい。本研究では高圧下におけるCKのシステインの反応性について検討した。 CKのシステインの反応性は300MPaまで変化しなかったが、350MPaから400MPaまでで増大し、さらに一つ反応性をしめすシステインが見い出された。これは活性部位の近くにあるCys-145であると予測される。この結果を利用して、これまで確立した差分化修飾法を用いてCKの部位特異的蛍光修飾を行った。蛍光性アルキル化剤、可逆的SH修飾剤DTNB、還元剤DTTを組み合わせて利用することにより、Cys-282およびCys-145に特異的に蛍光標識することができた。Cys-145標識CKは酵素活性を保ったが、Cys-282は酵素活性がなく、標識が特異的になされたことは明らかである。さらにおのおのの蛍光スペクトルはほぼ同じでありCys-282とCys-145が近接していることに矛盾しない。以上により高圧が蛋白質のシステインの反応性に対する制御に有効であることが示された。
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