アルコール脱水素酵素を電極触媒に用いて、酵素が触媒する自発反応の逆反応、すなわち、アルデヒドのアルコールへの還元、ならびに、ケトンのアルコールへの還元を行わせるには、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、もしくは、そのリン酸塩(NADPH)を補酵素として用いる必要がある。さらに、これらの補酵素は電解反応に際して酸化されるので、これを再生するために、別の酵素を電解系に投入する必要がある。本研究では、この別の酵素を用いないで電解反応を継続させることのできるような応用範囲の広い電解系を構築することに成功した。 アセトフェノンが上記の補酵素の酸化体の存在下でアルコール脱水素酵素によって1-フェニルエタノールに酸化され、この際に補酵素は還元されてNADHもしくはNADPHになることを見出した。そして、生成した1-フェニルエタノールは容易に電解還元されてアセトフェノンに戻ることを認めた。そこで、アルコール脱水素酵素と補酵素の酸化体、および、アセトンを含む水溶液を電解液に用いて定電位電解を行うと、アセトンが2-プロパノールに電流効率96%で還元された。アセトンの代わりにアセトアルデヒドを反応基質に用いて同様な電解を行うと、アセトアルデヒドが電流効率92%でエタノールに還元された。これらの結果から、アルコール脱水素酵素を電極触媒に用いる電解反応系を組み立てる際には、反応基質以外にアセトフェノンと補酵素を共存させるだけで良く、従来から用いられてきた電極触媒反応系を大幅に簡略化させることができることが明らかになった。
|