炭化水素類を温和な条件で選択的に酸素化し有用化合物に誘導する手法の開発のため、我々は非ヘム型高原子価ルテニウムによる酸素化反応の構築を考えた。酸化力の高い高原子価ルテニウム種を生成させる手段として電極反応は極めて有用であり、電解酸化により生じさせた高原子価ルテニウム種をメディーエーターとする電解酸素化系の開発を意図した。既にポリアミンポリカルボン酸錯体のサイクリックボルタンメトリーの検討からRu(III)-edta錯体を用いて電解酸素化の可能性を示すことができた。このRu(III)-edta-過酸化水素系によるシクロヘキセンの触媒的酸化反応においてジオールとエポキシドが効率よく生成することを見いだしている。中間に生成すると予想されるオキソ錯体の安定性と反応性を評価するため、前駆体としてのアコ錯体の合成単離を試み、アミン部分としてタ-ピリジンを、カルボン酸ユニットとしてデヒドロバリンを有するルテニウム(II)アコ錯体を単離した。この錯体の水とシクロヘキセン共存下でのサイクリックボルタンメトリーでは高電位側での酸化電流増大を示し、電解酸素化の可能性が示された。共酸化剤としてのtBu-OOH存在下でのスペクトル変化はオキソ錯体生成を示唆し、tBu-OOHを用いたシクロヘキセンの触媒的酸素化では効率よくシクロヘキサンジオール誘導体が生成した。また飽和炭化水素のアダマンタンは選択性良く三級のC-Hが酸素化されたアダマンタノールを与えた。一方、電解酸素化条件ではシクロヘキセンからシクロヘキセノンが生じ、電解酸化条件と共酸化剤存在下で生じる高原子価ルテニウム種は異なり、酸素化生成物の作り分けが可能であることが示された。
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