非水溶媒中の電極過程で生成するπ電子系ダイアニオンは、電子移動のみによって一次的に生成する超活性種であり、母体化合物に比べて著しく強い電子供与体となる。本研究では、この特殊電子状態であるπ電子系ダイアニオンのπ-π型電荷移動相互作用能を明らかにした。 テトラシアノエチレン(TCNE)のような電子受容性能の高い分子を電解によってダイアニオンにし、これらとオクタメチルジフェニレン(OMB)(4nπ電子系)およびヘキサメチルベンゼン(HMB)((4n+2)π電子系)とのπ-π型電荷移動錯体生成能について研究した。TCNEのサイクリックボルタモグラムの還元第一波および第二波は、HMB濃度の増加に伴いそれぞれネガティブおよびポジティブにシフトした。この現象は、TCNEがアニオンラジカルになるとそのアクセプター性が著しく減少し、またπ-ダイアニオンとなると逆にドナー性を示しHMBがアクセプターとなった分子化合物を生成することに起因する。一方、OMBを共存させた場合にはこの効果は更に大きくなった。そして、TCNEダイアニオンとHMB、TCNEダイアニオンとOMBとのπ-π型電荷移動錯体生成定数を評価した結果、4nπ系OMBが(4n+2)π電子系HMBよりTCNEダイアニオンと強く相互作用することが明らかとなった。この相互作用能の違いを、Huckelの芳香族安定化に関する(4n+2)π則との関連から議論した。また、OMBあるいはHMBは中性のTCNEと相互作用するときはHOMOが、TCNEダイアニオンと相互作用するときはLUMOが活性軌道となる。したがって、これらの相の違いから、生成する錯体はTCNE中性の場合とダイアニオンの場合で形を変え、電極過程で分子スイッチ現象が起きていることを明らかにした。
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