制癌性抗生物質ブレオマイシンがビチアゾール部位でB型DNAの狭い溝に結合し、ピリミジン部位金属錯体の作用によりDNAを切断することは従来からよく知られていた。ところがブレオマイシンのニッケル(II)錯体をイリジウム(IV)で酸化してニッケル(III)錯体にすると、従来知られていたのとは根本的に異なる様式でグアニン塩基を特異的に認識し、ピペリジンで処理するとブレオマイシンのニッケル(III)錯体が結合したグアニン塩基の箇所で切断がひきおこされることが明らかにされた。この場合ブレオマイシンはニッケル(III)錯体部位でグアニン塩基のN-7位と配位結合により相互作用していると考えられている。本研究はこのニッケル(III)錯体のグアニン特異的認識能を発展させ、DNAの局所高次構造の解析試薬の開発を行なうことを目的とした。 薬物とDNAの相互作用はDNAのコンフォーメーションに大きく依存することがよく知られている。とりわけZ-DNAに対する薬物の作用様式は通常のB-DNAとは大きく異なっている。昨年度の研究でブレオマイシンのニッケル(III)錯体は二本鎖DNAがB型コンフォーメーションをとっているときには反応せず、Z型になってはじめてそのグアニン塩基と反応することを見いだした。ブレオマイシンのニッケル(III)錯体とZ型DNAとその相互作用においてはビチアゾール部位は関与していないと考えられる。そこで平成7年度はブレオマイシンの金属部位をもとに構造を改変して設計した人工配位子を合成した。これをニッケル(III)錯体とし、Z型DNAとの相互作用を検討したところ、DNAのZ型領域に存在するグアニン塩基を検出することができた。このようにグアニン特異的認識能をもつ有機ニッケル(III)錯体を創製し、DNAの局所高次構造解析試薬として応用することができ、本重点領域研究の所期の目標を達成した。
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