今まで研究を行ってきた多重選択的リチオ化反応は主に2ケ所での選択性、すなわち2重選択的リチオ化反応であるが、今年度は、2重選択的リチオ化反応の一般性を他の系でも調べるとともに、より多重なものとして3重選択的リチオ化の可能性を、モデル化合物として(4-ブロモフェニル)-2-チエニルメタン(1)を用い検討した。 まず、2重選択的リチオ化反応の拡張例として、1、1-ジハロ-4、4-ジ(2、24-ハロフェニル)エテンの選択的リチ化反応を詳細に検討した。その結果はつぎのようである。 (a)1、1-ジクロロ-2、2-(4-ブロモフェニル)体では、テトラヒドロフラン(THF)中、塩基としてブチルリチウムを使用するとフェニル基の4位のみが選択的にリチオ化されるのに対して、フェニルリチウム使用すると1位が選択的にリチオ化され、昇温すると転移反応によりジ(4-ブロモフェニル)アセチレンが高収率で得られる。 (b)テトラブロモ体では、ブチルリチウムの作用でも今度は1位がリチオ化され、低温でCuCNを作用させた後昇温すると、テトラ(4-フェニル)ブタトリエンが65%の収率で得られる。 化合物(1)については、塩基、溶媒、反応温度などの選択によりほぼ選択的に各位置をリチオ化-官能化できることが明らかになった。ここでは、特にリチオ化体間の不同変化を防止することが大切である。 さらにまた、チオフェンの2(5)位の水素の酸性度は従来、pKa=ca. 32と推定されてきたが本研究の途中疑問が出てきたので、チオフェン並びに各種誘導体について、チリウムジイソプロピルアミド(LDA、iPr_2NHのpKa=35.7)を塩基に用い、酢酸-d_1でクエンチして、重水素化率により酸性度の測定を行ったところ、チオフェンのpKa=35.9と言う結果が得られた。また、誘導体については5位炭素の化学シフトと酸性度の間に良い相関関係が見いだされた。従つて、、チオフェン類のLDAを用いてのリチオ化-可能化に際して良い結果を得るためには、リチオ化反応が平衡反応であることを十分に考慮する必要がある.
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