研究概要 |
水溶性ホスフィンを配位子に用いて,パラジウム触媒自体に相間移動機能と遷移金属による触媒機能を付与して,液-液二相系における触媒反応を検討した.本年度は,とくにギ酸塩を用いる反応を行った. 1.ギ酸塩を水素供与対とするハロゲン化アリールのホルミル化反応を水-有機溶媒二相系で行った.ブロモベンゼンを用いると,有機相からベンズアルデヒドと安息香酸無水物が,水相から安息香酸が,いずれも同程度の収率で得られた.酸無水物が生成するのは,一旦生成したカルボン酸塩がホルミル化の中間体,すなわちアシル体と反応するためであろう. 2.ハロゲン化ビニルの還元反応を,ギ酸水溶液/トリエチルアミン系で,水溶性ホスフィンを配位子にもつパラジウム触媒を用いて行った.β-ブロモスチレンの反応で,エチルベンゼン,スチレン,1,4-ジフェニルブタジエンをほぼ同程度の収率で得た.1,4-ジフェニルブタジエンが生成するのは,一旦生成したスチレンとβ-ブロモスチレンのHeck型反応によって生成するものと推定した. 3.ジハロシクロプロパンの還元反応を2と同様,ギ酸水溶液とトリエチルアミン系で行った.2,2-ジブロモ-1-フェニルシクロプロパンの還元では,シス,トランスのモノブロモ体が生成し,これが徐々にプロペニルベンゼン,n-プロピルベンゼンに還元される.ジクロロ体では,反応が遅く,生成物として,プロペニルベンゼンとn-プロピルベンゼンのみが得られ,その他の中間生成物は得られなかった.ビシクロ[6,1,0]-9,9-ジブロモノナンから,モノブロモ体(シス,トランス)が得られた. 以上の結果,ギ酸塩は水-有機溶媒二相系の反応においても,簡便な水素供与体となりうることがわかった.
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