研究概要 |
錯体触媒サイクルは酸化的付加、挿入、還元的脱離、カップリング反応などの共通性のある素反応過程から組み立てられているが、どのような遷移金属錯体を用いても触媒反応を行なうことができるのではなく、特定の基質の反応には特定の金属のみが有効である。このような錯体触媒反応における基質認識を分子レベルで明らかにすることを目的として以下に述べる理論的研究をab initio MO法を用いて行なった。(1)Pt(PH_3)_2へのB-Bσ結合の酸化的付加反応: B-B結合はC-C結合と同程度の強い結合であるにもかかわらず、C-C結合の酸化的付加反応に比べ著しく低い活性障壁で酸化的付加反応が進行することが理論的に明らかにされた。計算により求められた活性障壁は、B-B結合よりも弱いSi-Si結合の酸化的付加反応のそれよりも低い。これは、ジボロンがルイス酸でありπ,π^*軌道が空であるため、遷移状態でPt(0)から強い電荷移動相互作用を受けることが可能であり、その結果遷移状態が安定化されるためである。(2)金属-ヒドリド、金属-アルキル結合へのCO_2及びエチレン挿入反応: CuH(PH_3)_21及びCu(CH_3)(PH_3)_22へのCO_2及びエチレン挿入反応について理論的計算を行ない、遷移状態構造を求めた。CO_2挿入反応の遷移状態は始源系寄りであり、1,2双方共余り歪んでいないのに対し、C_2H_4挿入反応では生成系寄りであり、1,2共に歪みは大きい。特にCu-C結合が遷移状態ですでに形成されている事が注目される。この結果に対応して、CO_2挿入反応の活性障壁に比べてエチレン挿入反応のそれは著しく高く、又、反応熱(発熱)は小さく、反応は困難である。この結果は、CO_2のπ^*軌道はCO_2のわずかな歪みにより著しく安定化し、CuR(PH_3)_2からの電荷移動を受け取り、遷移状態での安定化が大きくなるためであることが明らかとなった。
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