酸素分子は基底状態が三重項であるのでラジカル反応性に富み、様々な物質の自動酸化を誘発する。酸素分子による酸化反応はパーオキシラジカルの生成とその分解反応がキ-ステップであるので、その理解は重要である。 プラズマプロセシングにおいては、フリーラジカルなどの活性種が材料表面に残存するので、それらの材料を大気中に取り出せば、フリーラジカルが速やかに酸素分子と反応して固体表面にパーオキシラジカル(ROO・)が生成する。生成したパーオキシラジカルは一般に、種々の連鎖反応を経て安定な酸素官能基に変換し、表面酸化層を形成する。したがって、プラズマ材料プロセスにおいて、表面酸化層の形成による表面の分子物性変化を理解することは、気相反応の理解とともに重要な課題である。 かかる背景より、プラズマ照射アクリル樹脂上の固体パーオキシラジカルをESRスペクトル測定とそのシミュレーションによって解析した。室温において観測されたg-異方性スペクトルのシミュレーション結果は、プラズマ照射アクリル樹脂には複数のラジカルが生成しているので、対応するパーオキシラジカルも複数の成分スペクトルより成り立っていることが示されたが、それらの成分スペクトルはそれぞれのラジカル構造に対応するのでなく、高分子表面での酸素のトラッピングサイトの分子運動の違いに対応していることが示された。
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