上層大気のオゾン濃度バランスを理解する上で重要な反応中間体であるHOClの電子状態、光化学反応性に関する研究をおこなった。 HOClの266nmと355nm光分解で生じるOHラジカル基底状態の初期振動回転分布をレーザー誘起蛍光法を用いて測定した。いずれの光分解波長でも、振動励起したOHラジカルは観測されず、回転励起に使われるエネルギーも余剰エネルギーの5%程度であった。この結果はImpulsive Modelの予想と一致し、HOClの光分解が紫外光領域では反撥型ポテンシャルからの直接解離であることを明らかにした。また、光分解で生じたOHラジカルに付随する大きな並進エネルギーのため、検出に用いた^2Σ-^2II遷移の各回転線は大きなドゥプラー幅を示した。 OHラジカルの速度分布の異方性を測定したところ、266nmにおけるHOCl吸収バンドの遷移モーメントはO-Cl結合方向にほぼ一致する分子軸に対して平行であり、355nmにおける吸収の遷移モーメントは垂直であることがわかった。これらの実験事実を最近発表された非経験的な理論計算結果をもとに議論し、266nmの吸収帯は2^1A′-1^1A′遷移によるものであり、250nm付近に吸収極大を持つHOClの紫外領域スペクトルを形成することを明らかにした。また、300nm以下の領域に、弱い1^1A″-1^1A′遷移による吸収帯があらわれることがわかった。
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