研究概要 |
多価イオンと中性分子気体の衝突の際に電子移行過程によって生成する励起状態からに発光を観測する目的で,東京都立大学のECR多価イオン実験施設において実験装置を製作した.この装置を用いて,真空槽内でノズルから噴出させた気体分子ビームと,イオン源より引き出した後に電磁石によって質量選別した特定の多価イオンビームとを直交させた.それぞれのビームと直交する方向に設けたサファイアガラス製の覗き窓からは衝突領域を直接観測できるので,ここに光ファイバーを取り付けて発光を分光器にまで導いた.光検出システムは既存のものを使用して,可視・紫外領域における発光スペクトルを測定した. 本研究の最終的な目的は,標的気体から多くの電子が多価イオンの外側の軌道に移行して生成する中空原子を検出することであり,そのためには多くの電子を持つ原子番号の大きな原子を標的とする必要がある.しかし,装置の特性を調べておくためにも比較的簡単な系での予備実験は必要がある.そこで,標的としてヘリウムを用いて,O^<6+>-He系の衝突実験を行った.衝突エネルギーを60〜120keVとして280〜520nmの波長範囲での発光スペクトルを測定した.発光強度は弱いが,様々な励起状態間の遷移に伴う発光を観測できた.例を次に示す. O^<5+>(1s^23p^2P)→O^<5+>(1s^23s2S) (1) O^<5+>(1s^27i)→O^<5+>(1s^26h) (2) O^<4+>(1s^22s6h)→O^<4+>(1s^22s5g) (3) 式(1)および式(2)は一電子移行過程,式(3)は二電子移行過程によるものである.この様に主量子数が6や7と言ったエネルギーの非常に高い軌道に電子が移行することが判った.従って標的気体を変えることによって,多重電子励起状態の生成が気体できる.
|