包晶凝固は、融液を冷却した際、最初に晶出した相(初晶)を包むように次の相(包晶相)が晶出するためこのような呼称となり、非調和融点(包晶点)を有する物質の凝固過程に共通する現象と考えられている。ところが、同様に包晶点をもつ酸化物超電導体では、包晶相内の固相拡散が律速するこれまでの凝固モデルに代わって、初晶の溶解⇒液相内拡散⇒包晶相の晶出という新しい凝固・成長モデルが近年提唱され、帯溶融法あるいは引き上げ法で単結晶を育成するための原理として注目を集めている。しかしながらこのモデルのポイントである液相内拡散については、その存在を直接に証明する実験データは未だ報告されていない。したがって本研究では、モデル物質を用いた包晶凝固過程の可視化実験により、液相内拡散律速包晶凝固モデルの妥当性を調べることを目的とした。 実験試料には、酸化物超電導体とよく似た状態図を持つアルカリハライド水和物を用いた。試料セル内に温度勾配を設け、引き上げ法による単結晶育成の模擬を意図して、セル下部(高温側)に初晶(一水和物)、溶液を介してセル上部(低温側)に包晶相(二水和物)を配した。初晶/溶液界面、溶液/包晶相界面の温度を、それぞれ包晶点以上、包晶点以下とすることにより、初晶が溶解して包晶相が成長するプロセスを実現するこができた。特に、干渉縞測定を併用したその場観察により、定常成長状態ではその成長速度に対応した濃度勾配が溶液相内に形成されることを明らかにし、初晶の溶解⇒液相内拡散⇒包晶相の晶出というプロセスが成立する条件の存在を立証、すなわち液相内拡散律速包晶凝固モデルの妥当性を示した。
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