本年度は、昨年度までの行なってきた因果関係を表す複文の意味理解の研究の発展的展開として、1)述語の意味を利用する複文の意味理解、2)話し言葉談話において因果関係を表す部分を認識する方法、について検討し下記の成果を挙げた。 1)については、引続き従属節と主節の主語などの間の指示対象の一致、不一致を推定する方法を検討し、実際の小説から収集した「ので」接続の複文約200文に適用して評価した。昨年までの視点表現など語用論は全体の約20%の複文に適用可能であり、そのうち95%で正しい結果を推定した。本年度は、IPAL動詞、形容詞辞書の意味分類を利用し、主語の一致、不一致が主節と従属節の述語の意味分類の組合せに依存する場合を定式化した。例えば、従属節が「言う」などの言語活動だと主語は不一致になるなどという観察を得た。これらを総合すると、全体の72%が意味分類による推定方法が適用可能であり、そのうち90%は正しく予測できた。これらをまとめると、全体としては、75%の文で主語の一致、不一致に関して正しい推定ができるようになった。自然言語処理技術の現状から見ると、これは非常に高い推定率である。これに辞書や常識知識の強化を加えれば、将来人間なみの複文認識が可能であることが伺われる。なお、このような考え方に基づき制約解消メカニズムを応用した複文理解システムも試作した。 2)については、約2000発話からなる自由会話のコーパスを作成し、それについて以下の分析を行なった。すなわち「だって」「だから」という接続詞が使われた発話に関して、その発話と因果関係で結ばれる発話を探索する方法を提案した。この方法は、因果関係にある文が同一の話し手によって発話されている場合は90%以上の割合で正しく探索できた。
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