本研究の目的は、二人の話者の発話リズムがどのように相互に影響を及ぼしあうかを解明することである。発話リズムを最も直接的に反映する音声特徴として、発話速度、ポ-ズ長、音声の基本周波数に着目し、これらが話者間の相互作用の結果どのように変化するかを明らかにすることを目的とする。 第1、第2年度は、「先行話者の発話‥後続話者の発話」という発話連続、いわば、「対話」の基本ユニットにおける話者間相互作用について解析を行ったが、そこで明らかになった事実が、実際の「対話」においても観察されるかどうかを調べるため、本年度(最終年度)は、「対話」を新たに収録し、分析を行った。「対話」は自由対話ではなく、ある程度発話内容がコントロールされた、感情的要素のない、簡単な質疑応答形式に設定した。以下に、現時点で解析が終了している声の基本周波数(F0)に関する結果を報告する。 1.「対話」における2人の話者のF0値の推移に関しては、対話の進行と共に、近づく場合や離れる場合、上昇する場合や下降する場合など、多様なパタンが存在する。 2.対話開始時点での2人のF0値の差が比較的小さいか、あるいは反対に比較的大きい場合には、2人のF0値は対話の進行とともに離れるが、2人のF0値の差がそれらの中間の場合(特に大きくも小さくもない場合)には2人のF0値は対話の進行とともに近づく。 3.2人のF0値の差が大きいか、反対に小さい場合には、2人のF0値が近づいたり離れたりする度合は小さく、どちらでもない中間の場合には2人のF0値が近づいたり離れたりする度合は大きい。 4.1〜3の結果から、相互作用は、「相手との距離」(2人の対話者の発話特徴‥ここではF0値‥がどのくらい似ているか)に応じて、異なった形で実現するのではないかと推察される。すなわち、相手との距離が適切である場合には、相互作用は「同化」あるいは「引き込み」という形で実現されるが、相手との距離が近すぎる場合は「反発」あるいは「異化」として現われ、反対に距離が遠すぎる場合は相互作用が起こらなくなるのではないかと考えられる。 現在、文長やポ-ズ長についても解析を行っているが、最終的には、この3年間で得られた結果を総合的に捉えた上で、話者間相互作用の定式化を試みたい。
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