サブミクロンサイズの大きさの微小トンネル接合を用いて電流や電子を一電子のレベルで人工制御しようとする研究が、室温動作をも視野にいれて行われている。ところが、単一電子デバイスを室温で動作させるためには、接合の帯電エネルギー(すなわち、一電子当たりの静電エネルギー)をleV程度にしなければならず、これは上に述べたトンネル時間からエネルギーと時間の不確定性関係を用いて計算されたエネルギースケールと同じオーダーになる。従って、室温動作が可能な単一電子デバイスの動作特性はトンネル時間と切り離して考えることができないと予想される。このことは、トンネリングのダイナミックスをまじめに取り扱わなければならないことを意味する。我々は、このような問題意識に立って、帯電効果とトンネル時間の関係の研究を行ってきたが、本年度はトンネルレートを実時間でセルフコンシステントに計算する方法の開拓を行った。また、コヒーレントに振動する電場中でのトンネリングの問題を考察した。これはトンネル時間に関するButtiker-Landauer理論での量子力学的変調への拡張となっている。
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