本年度の研究実績は以下のとおりである。 1.フェノール水素結合クラスター(フェノール水和クラスター、フェノール多量体)のOH伸縮振動スペクトルを測定し、クラスターの構造決定に成功した。赤外-紫外二重共鳴分光法を用いフェノール水和クラスター(フェノール(H_2O)_n)のn=1〜4までのクラスターのフェノール側、水分子側のそれぞれのOH伸縮振動の赤外スペクトルを測定した。さらにab initio計算結果との比較から、n【greater than or equal】2のクラスターはring構造が安定であり、ring構造クラスターではring内のOH基の伸縮振動は大きく振動数低下し、一方ringの外側のOH基の伸縮振動はほとんど変化せず、localモード的になっていることが分かった。またring内のOH伸縮振動の振動緩和がring外側のOH伸縮振動の緩和よりも10倍以上速くなっており、緩和に振動モード依存がみられた。フェノール二量体、三量体では赤外およびRamanスペクトルを測定し、特に三量体においてOH伸縮振動が赤外スペクトルとRamanスペクトルとで強度交代を示すことからその構造がC_3回転軸をもつring構造であることを明らかにした。 2.トルエン二量体のホールバーニング分光およびRamanスペクトルの測定を行った。ホールバーニング分光では、二量体には平行型と垂直型の異性体が存在することを明らかにした。Ramanスペクトル測定の結果、単量体と二量体でモード12のRaman強度が大きく異なることを見いだし、その強度変化はモード12の振動とメチル基の内部回転準位との相互作用によることを明らかにした。
|