近年のレーザー技術の進歩により、化学反応ダイナミックスの量子制御が期待されている。理論的には、複数の終状態への経路の位相を変化させて反応を制御する方法(Coherent Control)、あるいは最適化制御理論で理想的なパルスを設計する(Pulse Shaping)、さらにはパルス間の遅延時間を変化させて制御する方法(Pump‐Probe)などが知られている。レーザー場と反応系の相互作用に関する基礎的研究が急務であろう。本年度は、レーザー場環境下の光反応ダイナミックスに関連して、CO、Nal分子の光解離反応をモデルとして、チャープパルスを用いた光解離ダイナミックスの制御に関して研究を行った。 (a)CO分子の電子励起状態での非断熱過程の量子制御 COのB励起状態には非断熱相互作用によるポテンシャル井戸のために準安定な束縛状態が存在しうる。励起COを高速に解離させたい場合、負のチャープを用いるのが効果的であり、また正のチャープにより、励起状態のポテンシャル井戸に波束を閉じ込めて解離させない状況を作り出すことができることが判った。これらのことは、パルスのチャープにより励起波束の分散に差が生じ、励起状態のポテンシャル井戸に存在する共鳴散乱状態との干渉が大いに影響された結果と説明できる。 (b)NaI光解離過程における準安定状態の量子制御 ハロゲン化アルカリの光解離過程においては、イオン結合的な基底状態と共有結合的な第一電子励起状態のポテンシャル曲線が交差する。これらの状態間の非断熱相互作用の大きさにより、第一励起状態に準安定な束縛状態が存在する。Zewailらはフェムト秒レーザーパルスを用いて、この準安定束縛状態において振動する波束の運動を追跡することに成功し、遷移状態分光を実現した。本研究では、フェムト秒レーザーパルスをチャープした場合、この準安定束縛状態において振動する波束の運動を如何に制御可能かについて研究を行った。
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