本研究では励起カドミウム原子・水素分子系での反応ダイナミクスについて、半衝突過程と全衝突過程の両面からのアプローチを試みた。 半衝突過程の研究では、超音速ジェット中で生成するカドミウム-水素のファンデアワールス錯体にカドミウム原子の励起-重項状態への共鳴線(228.8nm)付近のレーザー光を照射した。そして、半衝突過程により生成する三重項状態のカドミウム原子のアクションスペクトルの測定を行った。Cd(^3P_2)のアクションスペクトルでは、共鳴線の長波長側に単調減少するスペクトルと、それに重なったピークを持つスペクトルが出現した。これらのピークはCdH_2の基底状態から最低励起一重項状態への遷移の振動バンドであると考えられる。また連続的なスペクトルは、非常に短寿命の中間状態を経た分解過程の存在を示唆する。 全衝突過程の実験では、三重項状態のカドミウム原子に着目し、水素分子との衝突による水素化カドミウムの生成と基底状態への物理的消光過程の分岐比の決定を行った。カドミウムの励起三重項状態への共鳴線(326.1nm)に同調させた強力なレーザー光を照射すると光吸収と誘導放出が釣り合い、基底状態と^3P_1状態のカドミウム原子は平衡状態になる。水素との反応終了後に別のやはり共鳴線に同調させたレーザー光で基底状態のカドミウム原子濃度をプローブすると、励起用レーザーを入射させた場合には、入射させない場合に比べて、水素化カドミウムの生成量に見合う分だけ基底状態のカドミウムの濃度が減少する。この減少量から水素化カドミウムの生成効率が決定できる。その結果、^3P_1状態、^3P_0状態ともに80%という高い効率で水素化カドミウムを生成させることが判明した。特に、^3P_0状態の結果はこれが7kJ/molの吸熱反応であることを考えると高い効率である。
|