本研究は、ファンデルワールス分子(N_2O)_2を前駆体に用いて反応入口の衝突の配向を規定して起こさせた反応O(^1D)+N_2O→NO+NOの生成物に加わるトルクの方向を測定することで、遷移状態の構造がどのように変化しながら解離していくのかを明らかにすることを目標としている。 実験は、超音速ジェット中に生成する(N_2O)_2の一方のN_2Oを解離させるレーザー光に直線偏光を用いてO(^1D)原子の並進ベクトルkを実験室系で異方的に分布させて、反応生成物NOの回転角運動量ベクトルjの空間異方性(rotational alignment)を測定して、これら二つのベクトルの角度相関(k-j相関)の情報を得た。 Rotational alignmentは、O(^1D)原子を生成する分解光の偏光ベクトル方向と生成物NOの検出光の偏光ベクトル方向が平行な場合と垂直な場合の、検出光によるレーザー誘起ケイ光の強度比から求められる。検出レーザー光の偏光ベクトル方向を回転させる際にレーザー光の光路の変化などによる検出効率の変化が生じないように、光弾性変調素子を用いて精確な測定を行った 生成物NOは振動準位v=0への分布が最大で最も検出しやすいので、v=0に生成したNOについてまずrotational alignmentの測定を行った。得られた結果はkとjの角度相関が等方的よりはやや平行に近く、遷移状態のONNO面外にNO(v=0)が回転することに対応する。これは、これまでに我々のグループで行ってきた生成物の振動回転分布の測定結果からの直感的な予想に反するもので興味深い。遷移状態のダイナミックスを更に詳細に明らかにするために、ドップラー分光法による散乱角度分布測定と、高い振動準位に分布したNOのrotational alignment測定に着手している。
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