近年、海洋生物から強い生物活性と特異な化学構造を有する天然有機化合物が数多く発見されている。なかでも、従来の天然物の範疇を越えるマイトトキシン、ゾ-ザンテラトキシン、パリトキシンのような大型分子が単細胞性藻類から分離され注目を集めている。 本研究では、マイトトキシンなどの大型天然物の作用機構を解明するために、まず精密な3次元構造に基づいた作用点の解明を試みた。はじめに、マイトトキシンの作用に対するブレベトキシンBの阻害効果を調べた。すなわち、ラットグリオーマC6細胞を用いてマイトトキシン(0.3ng/ml)のCa^<2+>流入促進活性に対するブレベトキシンBの阻害活性を調べたところ、1-30μg/mlの範囲で用量依存的にマイトトキシンの活性を阻害した。その他マイトトキシンの部分合成フラグメント等を用いた同様の実験によって、標的分子との結合部位を推定した。一方で、NMRと分子力場計算によりMTXの後半部分の17個の疎水的エーテル環部(P-F'環)がほぼ直線的な立体配座を有していると推定されていたが、生物試験の結果はこの部分が脂質二重膜を貫通し、かつ標的分子への結合に関与していることを示唆した。また、親水性部分は屈曲した立体配座を有していることが判明したが、この部分は膜表面に露出しており、特に硫酸エステルを含むEFGH環付近の構造は作用標的分子との結合に関与していると考えられる。このことは、MTXが全長140Åにも及ぶ細長い構造によって標的分子の膜貫通部位と細胞表層部位の両方を認識している可能性を示している。
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