研究概要 |
本研究者らは既に、PGI_2人工類縁体であるイソカルバサイクリンの構造修飾により光親和性受容体探索子(APNIC)を開発し、ヒト血小板等のPGI_2受容体タンパク質を同定するともにそれらの糖タンパク質受容体の分子量を決定している。今回、さらにそのω側鎖部の系統的な構造修飾により、中枢神経系である視床部位PGI_2受容体に強くかつ特異的に結合する受容体探索分子(15R-TICと命名)を開発した。この探索分子の設計にあたってはω側鎖にトリル基を導入し、ポジトロン核種である^<11>CH_3を組み込んだPETリガンドへの展開を念頭に置いた。探索分子の合成はHorner-Emmons反応を基に、短工程、高収率で行なうルートを確立した。この探索分子のPGI_2受容体結合実験の結果から、15R-TICは延髄孤束核(uncleus tractus solitarius,NTS)に分布する末梢型PGI_2受容体とは結合せず(IC_<50>=1.2μM)、中枢神経系である視床部位(thalamus)のPGI_2受容体に強くかつ特異的に結合する(IC_<50>=31nM)ことがわかった。この顕著な結合特異性は相当する15位トリチウム化体を用いた中枢および末梢型脳切片(in vitro系)のオートラジオグラフィーにより鮮明に画像化された。この受容体は中枢神経系に集中して分布している新規PGI_2受容体(IP_2と命名)であり、電気生理実験、破壊実験などから興奮制生理機能と直結した神経作用を担っていると考えられる。現在、この新規受容体の機能の解明を急ぐとともに、脳in vivo系への活用をめざして相当するポジトロン^<11>C核種を導入したPET用探索分子の合成を検討している。なお、すでに金属触媒手法により本放射炭素核導入の機軸となるベンゼン環上への高選択的メチル化反応の開発に成功している。
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