研究概要 |
これまでにキノコ類に存在する色素については多数の報告があるが,その機能については全く未知であった。ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属のトキイロヒラタケ(Pleurotus salmoneostramineus L.Vass.)は,1973年にシベリアの沿海州地方で新種のキノコとして発見され,現在ではロシア極東,日本、ニューギニアなどに分布していることが知られている。この食用キノコは,傘の表も裏も美しいピンク色をしているが,発茸後一週間ほどで色あせて白っぽくなるため,天然のものを見つけることは極めて困難である。最近,共同研究者の稲葉らが,このキノコの人工栽培に成功したので、我々は,全く解明が進んでいなかったこのキノコのピンク色の色素の構造と機能に関する研究を展開した。その結果,この色素物質は,分子量48900の新しい色素タンパク質で,分子量25200と23700の二組のサブユニットから構成されていることが判った。さらに,この色素本体として4nπ(n=2)系の新しく且つ特異な芳香族化合物の3H-インドール-3-オン(1,インドロン)を見い出した。この色素タンパク質は1と金属(Fe)-糖(ガラクトース鎖)タンパク質から構成され,その電子スペクトルの最長極大吸収波長は496nmにある。なお,地球上で観測される太陽光線の波長分布の極大値は約500nmにあることや,このキノコの成長には光が必要不可欠であることなどから,この色素タンパク質は何らかの機能をもつ光受容体であることが強く示唆された。
|