本研究では希土類金属錯体の電界発光特性について検討し、発光機構を明らかにするとともに、希土類金属錯体を発光中心とする高色純度、高効率、高輝度エレクトロルミネッセント(EL)素子を開発することを目的としている。本年度はキャリア輸送性ポリマー中に希土類金属錯体を分子分散した場合の錯体からの電界発光特性について検討する目的で、キャリア輸送性ポリマーにホール輸送性ポリマーを用い、β-ジケトン配位子を有するユウロピウム錯体を分散した場合の錯体の電界励起について、積層型EL素子を作製し特性を評価した。 蛍光スペクトルの測定から、錯体の配位子の吸収とホストポリマーの発光がオーバーラップしホストポリマーの励起エネルギーが共鳴的に錯体の配位子へ移動できることがわかった。電界発光(EL)において、錯体濃度によってポリマーからの発光と錯体からの発光が見られた。このとき、錯体濃度の増大に伴い、ポリマーからの発光は減少するが、ホストポリマーにより、その減少の度合い、すなわちエネルギー移動の効率が異なり、ホストポリマーからゲスト錯体へのエネルギー移動がELにおいても重要であること判明した。 発光中心である錯体の励起機構にはつぎの2つが考えられる。1)励起されたホスト分子からゲスト分子へのエネルギー移動。2)ゲスト分子上でのキャリアのトラップによるゲスト分子上でのキャリア再結合によるゲスト分子の直接励起。昨年度の低分子蒸着膜系での励起機構では発光中心の錯体と共蒸着した電子輸送剤からのエネルギー移動とキャリアトラップの両方が示唆されたが、ホール輸送性ポリマー中での励起に関しては、蛍光スペクトルとELスペクトルが良い一致を示したため、励起は主にホストポリマーからのエネルギー移動であると考えられる。したがって、より高効率でエネルギー移動を起こすホストポリマーを使用すると、錯体が濃度消光を起こさない低濃度で使用することができ、より効率の高いEL発光が得られることが示唆された。
|