研究概要 |
反応下での電荷移動に関する情報を得る目的で、燐酸ジフェニルと各元素(Ce(IV),La(III),Lu(III),Eu(III)等)により形成される錯体のXPS測定を行った。試料は、燐酸ジフェニルと各金属の混合溶液を沈殿させ乾燥させたものを用いた。 燐酸ジフェニル単体、及びCeと燐酸ジフェニルの比を1:1、10:1としたときの、Pの2p軌道の化学シフトは、混合比が1:1では、Pの結合エネルギーは同様の値を示し、Pと各イオンの間の電荷移動が同程度であった。しかし、イオンの混合比を増すことにより、Ce(IV)の場合のみ、結合エネルギーは高エネルギー側にシフトし、混合比の増加に伴い、Pから電子が奪われるという結果が得られた。Ce(IV)と燐酸ジフェニルとの混合比を10:1まで変化させた場合のPの2p軌道のスペクトルの変化では、P2p軌道の細部を見ると、いずれも2つの成分から成り立っていた。これら成分の比が上記混合比とともに変化した。低エネルギー側のピークがCe-O-Pの結合、高エネルギー側のピークがCeが何らかの錯体を形成して、P原子を攻撃している効果を表しているものと考えられる。混合比の増加とともに、低エネルギー側のピークの半値幅が減少することから、Ceの場合は錯体の形成とともに、Ce-O-Pの構造が安定化し、Pへの攻撃が行われている様子が見て取れる。他の元素では、これら変化が見られず、DNAの切断が可能なのはCe(IV)だけであることを考慮すると、今回明らかになった元素間での電荷移動の差が、核酸の切断反応を支配している可能性が高い。 電荷移動には、2:1以上の混合比であることが必要で、これは、実際の切断反応において、活性な特性が同様に、混合比が2:1以上で生じることと対応している。また、最近の、理論計算でも、1:1の比では、切断が生じないという結果が報告されており、少なくとも2原子以上の錯体が切断反応に対して効力を有する可能性が高い。今後、これら反応活性な錯体の構造を定める方向に研究を進めていく予定である。
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