研究概要 |
現在のシリコン太陽電池は、その分光感度特性のピーク波長が単結晶シリコンでは800nm、アモルファスシリコンでは600nm前後にあって太陽光のスペクトルのピーク波長550nmに比べいずれも長波長側にずれており、太陽光の短波長領域の光が有効に使われていない。そこで、エネルギーの高い短波長領域の光を希土類イオンに吸収させ、太陽電池の感度の高い長波長側で発光させて効率よく吸収させ、全体として従来の太陽電池の変換効率を上げようとする試みを提案した。実験の結果、アモルファス(a-Si)太陽電池に対してほぼ全ての結晶で効率の向上が認められ、基本的に希土類Euを使うアイデアは有望であることが明らかとなった。そして効率の上昇のためにはEu濃度に最適値があり、それはモル濃度で0.05mol%であることが実験的に求められた。この濃度で最大の変換効率の相対比は、1.5に達し、通常のa-Si太陽電池の変換効率を10%とするとEuの効果によって5%もの効率の上昇を見込めることになる。今回新しく使用した多結晶シリコン(p-Si)太陽電池をモニターとして、CaF_2:EuのEu濃度の変えた単結晶に対する変換効率の結果には,a-Siの場合と異なりEuの濃度依存が見られない。これは,p-SiにおいてはEuの発光帯の位置である420nm前後で殆んど感度がなくEuの変換効果が効いていないためであると考えられる。他方、イオン注入した単結晶では変換効率の測定を行なうまでには至っていないが、新しく得られたp-Siに適した長波長蛍光の結果を利用して試みている。また結晶の太陽光による加熱の影響も調べ、発光は実用温度で減衰がないことが分かった。目的に沿った希土類イオンの候補としてEu^<2+>の他にCe^<3+>,Yb^<3+>も可能性がある。CaF_2とSrF_2の混晶にドープしたEuの発光波長が大きく長波長側にずれることが分かり、これを利用すれば更に効率を上げられる見通しがある。更に多孔質ガラス(コ-ニングバイコール、7930)にEu-キレート錯体を浸透させる方法でp-Siの分光感度に適した発光を観測したので今後に期待している。
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