研究概要 |
序 近年、ランタナイド系列の原子を含んだ化合物の触媒作用、ランタナイド系原子を含んだ高温超伝導物質とうの物性が注目されている。それら興味ある物質にはランタナイド系原子の特長である開殻構造を持つ4f電子が関与していると考えられる。本研究では最外殻電子である6_S電子と開殻構造を持つ4f電子に注目して以下の3項目についてHartree-Fock(HF)の計算を行いこの原子系列の電子状態の定性的な特長を明らかにする。a)HF極限のエネルギーnumerical-HF(NHF)、b)6_Sと4f電子のイオン化エネルギー(IP)、c)相対論的効果。さらに分子の電子状態の研究ではGauss型関数が使用されることが多いので、d)HuzinagaによるGauss型基底関数(ここではRHFと略称)の精度も調べた。 結果と考察 非相対論的NHFとRHFのよってえられた全エネルギーの差は、基底状態でもイオン化された状態でも、LaからYbまでは0.0002-0.0006、Luでは0.0016a.u.と小さい。6_Sのイオン化ポテンシャルはLa-Eu間ではほぼ一定、Tb以後はやや増加傾向にある。HFの計算結果は実験値とCeを除き同じ傾向を示す。計算された全ての6_Sイオン化ポテンシャルは実験値より小さいが、これは電子相関が基底状態の方が大きいことを考えると妥当な結果と云える。4f電子の非相対論的計算によるイオン化ポテンシャルの実験によるそれと同じ傾向を持つ。しかし全ての原子で計算値は実験値より1-3eV大きい。電子相関を考慮にいれるとイオン化ポテンシャルはより大きくなるので、非相対論的計算は、定量的には問題がある。相対論の効果を入れると4fのイオン化ポテンシャルは2-8eV減少し、実験値より小さくなる。5_S,5_Pのイオン化ポテンシャルは30eVと大きく、空間的には4f電子より拡がっている。安定な5_S、5_P電子に囲まれた4f電子は、化合物中でも、原子状のまま保持されるのではないか、ひいては、この事実が多くのランタノイド原子を含む化合物の特長を決めているのではないかと推察される。
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