分子性結晶の構造を計算化学的方法により予測するためには、信頼性の高い分子間ポテンシャル関数を作成することが一つの鍵になる。我々は従来から量子論効果を考慮した分子間ポテンシャル関数を提案し、いくつかの分子系に適用してその有効性を示してきた。しかし、従来からよく用いられているポテンシャル関数と同様に、我々のポテンシャル関数もペア-近似の枠内であるため、多体相互作用が考慮できていない。多体効果は、水分子などで無視できない程大きいことが分かっているので、本研究では多体効果を考慮した分子集合体の構造計算のための新しいエネルギー計算法であるab initio ペア-近似法を提案した。この方法は、ab initio MO法を用いて、分子集合体を構成する分子ペア-について計算することにより、系の全エネルギーを求めるものである。一般にab initio MO計算の計算時間は分子のサイズの4乗に比例するので、本方法によると計算時間を大幅に短縮できることになる。また、分子ペア-ごとに独立に計算を行えばよいので、今後利用が可能になる並列処理計算機にも適合した計算方法であり、これによっても高速な計算ができるようになると考えられる。一方、計算結果の信頼性に関しては、本方法は単純なペア-近似とは異なり、まわりにある分子からの静電ポテンシャルの下での分子ペア-のエネルギーを計算するもので、多体効果の重要な部分を占める分極相互作用の多体効果を考慮している。水分子のクラスターについて計算を行い、本方法の結果と通常のab initio MO法の結果と比較検討したところ、本方法は多体相互作用エネルギーの60%から90%を与えており、全相互作用エネルギーでみた誤差は5%程度であり、十分満足できる信頼性を持つことが分かった。
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