研究概要 |
われわれは、アクセプター性分子とBEDT-TTFとの組み合わせによって有機電荷移動錯体特有の物性発現を目的として、物質開発研究を行った。非常に多くのドナー、アクセプター分子を組み合わせて化合物を作製したが、本報告書では、カラム間コンタクトを作りやすいBEDT-TTFが、有機2成分の電荷移動錯体の構造、物性に顕著な影響を与えた新物質について報告する。 1次元的な構造を有する従来型の有機2成分の電荷移動錯体は、低温で格子変形を起こしてパイエルス相に落ち込む。これは、分離積層(金属)、交互積層型(絶縁体)によらず、一次元系に非常に一般的に見られる傾向である。ところが、BEDT-TTFをドナーとする電荷移動錯体には、この一般的傾向からはずれた物質が数多く現れることが明らかになった。以下は従来の傾向からはずれる典型物質である。 1.交互積層型反強磁性体(BEDT-TTF)(F2TCNQ) 2.モット絶縁体(BEDT-TTF)(TCNQ) 3.金属的錯体(BEDT-TTF)(XTCNQ)(X=F,Cl,Br)、(BEDT-TTF)(DCNQI誘導体) これらの、物質では帯磁率は低温に向かって上昇するか、ほとんど温度に依存しないパウリ常磁性を示す。特に、1.2.の絶縁体ではBEDT-TTF分子の横方向のつながりによって、かえってアクセプター分子が孤立した構造となり、その結果アクセプター分子上のスピンは低温までキュリー則に従う。このようにJの弱い局在スピンは1次元的構造をとりやすいドナーを選んだ場合にはほとんど見られない。以上述べたとおり、BEDT-TTF分子のカラム間結合を作りやすい性質は、伝導性物質だけでなく、絶縁性物質にも、反強磁性相を安定化させるような形で顕著に現れることが明らかになった。
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