(TMTSF)_2X塩のSDW相の電子状態を調べるために、主として非線形電気伝導度測定及びNMR測定を行った。 非線形電気伝導度測定では、寒剤である液体ヘリウム4の排気系を整備し、測定温度域を拡張し1.15Kまでの低温での測定を可能にした。また、低温域におけるジュール加熱の効果を抑えるため、受信系の改良を行い10μsec以下のパルス電流による測定を可能にした。これにより、SDW相での非線形電気伝導度測定を行い、ほぼ全ての温度域において明確なしきい電場を観測した。この結果は、不純物にピン止めされていたSDWが、有限電場の下で古典的な機構によりピン止めをはずしスライディングを開始するモデルにより理解される。一方、低温域でのみ高電場において温度に依存しない大きな非線形電気伝導度が観測された。この新たな電気伝導の機構は量子効果を示唆するものであり、今後さらに詳しく調べる予定である。 NMR測定では、装置の改良を行い測定周波数を50MHzまで広帯域化した。これにより、^1Hのスピン格子緩和率T_1^<-1>の温度変化を周波数を変えながら測定した。この結果、いずれの周波数においてもSDW転移温度より十分低い温度領域でT_1^<-1>の発散的増大を観測した。これによりSDWを二分する新たな転移が磁場によってほとんど変化しないことが明らかになった。また、この転移における局所磁場の揺らぎは、SDW転移におけるものとほぼ同じ周波数依存を持つことも分かった。
|