分子性導体における分子配列を支配する要因としては、ドナーの形状・価数など多様であるが、本研究は、分子配列制御を2種のドナーを、ドナーの電子状態をできるだけ変えずに二量体型ドナーとして組み込むことにより、ドナーの結晶内での配列を多様化し、単独ドナーでは実現しないドナー配列を可能にすることを目的としている。アルキル架橋化はドナーを二量化するとともにドナーの形状を設計可能とする。つまりアルキル鎖の長さにより二つのドナー間のとり得る相対距離は制約され、その相対配向はアルキル鎖の特定の安定配座を利用して制限することができる。上記の基本方針に基づき、二つのTTF骨格が交差して重なるように4つのアルキル鎖で架橋した交差型シクロファンドナーを合成した。サイクリックボルタンメトリーの測定より、このドナーは導電性錯体を得るのに適度なドナー性を有し、2つのドナー部は互いに相互作用していることが明らかとなった。シクロファンドナーとTCNQとの錯体は半導体的性質を示した。その錯体のX線構造解析により、二つのドナー部は90度交差した重なりをもつこと、及び従来の平面型ドナーとしてよく知られているBEDT-TTFではとり得ない様式の分子間接触をもつことが明らかとなった。シクロファンドナーのラジカル塩において、交差型のドナーの重なり様式は電気的性質のみならず磁気的性質を伴う可能性があり、磁性と導電性の複合した新物性を示し得る点で興味深く、交差型シクロファンドナーの合成的意義は大きい。
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