本研究の目的は、CeNiSnにおいてフェルミ準位付近の状態密度に形成される擬ギャップの起源を明らかにすることである。ところが、CeNiSnの擬キャップは小さなエネルギースケールを持つため、低温では不純物状態の影響を受けやすく、これまでの試料では擬ギャップ状態の本質を得づらかった。最近、チョクラスキー法で育成した単結晶を10^<-9>Torrの真空中で16日間固相電解したところ純良単結晶が得られた。 この試料に対して磁場中比熱、磁気熱量効果、磁歪、熱膨張係数および弾性率の測定を行った。磁場は、容易軸方向に印可した。零磁場の比熱は温度降下とともに状態が減少し、擬ギャップが形成されていることを示している。印可磁場を強くすると、擬ギャップが壊され状態が回復する様子が明確に示されている。これまでの試料では、不純物の影響により2K以上の比熱にこのような明確な磁場依存性が観測された例はなく、これが初めての結果である。比熱の磁場依存性は、低温で磁場増大とともに一旦増加した状態が減少に移る、極めて興味深い傾向を示すことを発見した。 三宅らの理論によれば、4f電子の基底状態が±3/2>で記述できる場合^<1)>、フェルミ準位付近の状態は、2重ピークを持つ擬ギャップが形成される可能性がある。彼らは、理論で得られた擬ギャップを低温でリジッドバンド的に取り扱い、磁場効果を状態のZeeman分裂として取り入れて、電子比熱係数の磁場依存性を計算した。この計算結果は、本研究で得られた比熱の磁場依存性を定性的によく説明する。1)T. Suzuki et al. 140-144(1995)1215.
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