生物は分子組成として極めてヘテロな物質であると同時に、個々の分子も非常に複雑な構造を持っている。しかし、そこには複雑流体と極めてよく似た構造も多く見られる。例えば、生体膜はスメクティック液晶と基本的に同じであるし、タンパク質は高分子のグロビュール状態と良く似ている。したがって、第ゼロ近似としては、生物は現在研究されている各種の複雑流体がある秩序を持って混合されたものであると見なすことができる。そこで私達は、2つの種類のゆらぎ(脂質膜の相転移点近傍に見られる臨界ゆらぎとMazemkoらの理論によって予測されているラメラ構造に由来するゆらぎ)を示す脂質膜ラメラをモデル系とし、さらにそれを豊富に含んだ生体組織(脳組織など)を最終的な試料として、力学物性の測定を行い、脂質膜ラメラと極めて複雑な生体組織の中でのゆらぎを推定した。 その結果、脂質ではラメラ構造によるゆらぎが顕著であり、脳組織の場合はそれに何らかの緩和現象が重なっていることがわかった。
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