ネットワーク構造を格子上の0または1の変数で表した動的モデルの開発を行った。特に、動径分布関数の分析が行われ、局所的に氷に近い秩序が発達しかけたり、消えたりする揺らぎと、ネットワークの大規模な構造変化とエネルギーの長時間変化の相関が示された。これらのネットワーク運動のパターンが溶質間相互作用に及ぼす影響、プロトン移動に及ぼす影響の分析を行うための模型が開発され、基礎的データが集められた。 上述の格子模型の結果が分子動力学計算と比較され、分子動力学計算において数百fsecから数psec程度の時間間隔で、氷に近い局所的構造が発達し、また崩壊する、という構造の形成と崩壊のパターンが確認された。局所構造指数という新しい量が定義され、この構造発達と崩壊の時間空間パターンが定量的に分析された。パワースペクトル、相互情報量などの分析を通して、大域的な構造の相関、情報の流れを示す指標の構築を進めている。 水溶液反応で、とくに興味があるのは生体内反応である。x線などの方法で解明された蛋白の立体構造から経験的ポテンシャルを構築し、蛋白質の立体構造に関する分子動力学計算を行った。ほどけたランダム鎖を初期条件として、カルシウム結合蛋白などについて3次構造のかなり良い再現が可能である。分子動力学を行って、nativeな構造が再現された場合とされなかった場合について、トラジェクトリーを詳細に比較し、正しくフォールドするための必要条件が明らかにされた。とくに、疎水相互作用を残基の表面積によってとりいれたポテンシャルの改良が進んでいる。また、上記の分子動力学の結果を定性的に再現する単純なスピングラス模型が開発され、フォールドの各段階の動的構造と蛋白質の構造の階層性との関係が分析された.
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