強相関電子系である銅酸化物高温超伝導体は、電荷揺らぎとスピン揺らぎが分離した異常金属状態にあると考えられる。この異常な電子状態の起源は高温超伝導発現機構と密接に関係していると考えられ、異常金属相の解明は極めて重要である。 電子ラマン散乱分光は赤外吸収分光と相補的であり、さらに入射光・散乱光偏光ベクトルを変えることにより、フェルミ面の異なる領域の電荷応答を選択的に観測可能である。本研究では、電子ラマン散乱の励起光源として連続励起色素レーザーを用いることにより、不要なフォノン散乱の寄与を取り除き、純粋な電荷応答特性の観測に成功した。また高精度な光検出器用コントローラを導入し検出系の精度の向上をはかった。その結果、以下に記す成果を得た。 1.高温超伝導体Bi_2Sr_2CaCu_2O_8において電子ラマン散乱スペクトルの温度依存性・偏光依存性の精密測定を行い、常伝導相における電荷応答特性がab面内、即ちでフェルミ面内で異方性を示す事を明らかにした。 2.1の結果と以前測定した超伝導相の結果から、超伝導凝縮の温度依存性・偏光依存性を求め、理論計算との比較から、高温超伝導体がd波超伝導であること、さらに超伝導秩序度がx^2-y^2の対称性を持つことを明らかにした。 3.銅酸化物高温超伝導体La_<2-x>Sr_xCuO_4と同じ結晶構造を持つ、最近発見されたSr_2RuO_4超伝導体の電子状態を電子ラマン散乱分光により研究した。その結果、電子ラマン散乱が銅酸化物と同様な連続スペクトルを示すことを見出した。この事実はSr_2RuO_4超伝導体が、電子相関の強い強相関電子系であることを明らかにした。
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