本研究は、生物界での大量絶滅が見られたP/TとK/T境界層およびその上下の地層に含まれる有機物を調べ、それらの示す特徴を明らかにすることを目的に行った。 その結果、P/T境界層については種々の脂肪族と芳香族炭化水素を検出した。脂肪族炭化水素は境界層である黒色頁岩の中央部では上下の層に比べて存在量が少なかった。また、黒色頁岩の中央部では上下の層に比べてプリスタン/ファイタンの比が1より大きく、堆積環境が酸化的であったことが判明した。芳香族炭化水素は黒色頁岩の中央部では二、三環式のものは存在量が少なかったが、反対に、四環式から六環式のものは存在量が多かった。また、構造異性体や位置異性体では熱的により安定な構造のものが優位に存在していた。したがって、黒色頁岩の中央部では芳香族化が進行していることと、熱的により安定な構造のものが存在している特徴が見られ、黒色頁岩の中央部では上下の層に比べて、酸化的な環境化で、特に強い熱の作用を受けたことが判明した。 K/T境界層については種々のジカルボン酸を検出した。これらは炭素数2から9までの直鎖飽和のもの8種、炭素数4から7までの分岐鎖飽和のもの13種、炭素数4と5の不飽和のもの5種である。さらに、ジアステロマ-については光学異性体のR/S比がほぼ1でラセミ体であることを見い出した。これらの特徴としては、K/T境界層では、その上下の層と比べ多量のジカルボン酸が存在すること、直鎖のものが優位であり、また、トランス体よりもシス体が優位に存在することを見い出した。一方、隕石起原のジカルボン酸は検出されず、K/T境界での大絶滅の原因の1つとされている隕石衝突説を支持する証拠は見いだせなかった。
|