研究概要 |
リボソームRNA等のタンパク質生合成系の諸因子を用いて生物の分子進化的位置付けがなされているが、ペプチド鎖伸長因子EF-Ts/1ββ'に関しては、解析された生物種の少ないこともあり行われていない。また、分子進化についても不明な点が残されている。本研究では、古細菌Halobacterium,Pyrobaculum,Suluforobusを中心にマウス、ショウジョウバエ、トウモロコシ、Agrobacterium(真正細菌)等の広範な生物種より単離したゲノムDNAからEF-Ts/1ββ'遺伝子の一部をPCR法にて増幅し、構造解析した。 その結果、1.トウモロコシEF-1ββ'homolog中には真核生物の中でこれまで植物にのみ存在していなかった活性制御部位中のセリン残基が相当部位に存在すること。2.古細菌Halobacteriumに真核生物のEF-1ββ'でなく原核生物のEF-Ts homologが存在すること。3.真核生物のEF-1ββ'保存領域に由来するプライマーでHalobacteriumからEF-Tuが増幅されること等の知見が得られた。これらの結果からEF-Ts/1ββ'の分子進化について、原核生物EF-Tsが真核生物のEF-1ββ'の起源である可能性が示唆された。 以上の生物種に加え、原始地球環境で微生物との相互作用により形成された可能性のある鉄、マンガン鉱床サンプルから培養を経ずに直接DNAを単離し、EF-Ts/1ββ'からマンガン酸化細菌等を分離培養し、その諸性質について検討した。またこれら鉱床遺伝子の一部を増幅した。増幅DNAをサブクローニングして得られた幾つかのクローンについて構造解析を行った結果、これらクローンの由来バクテリアは不明であるが、分子系統樹上で1つの分岐群を形成しており、これらの遺伝子を持つ微生物で生態系中の7割から9割を占めると推定された。
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