研究概要 |
炭酸カルシウム系の地質物質(カルサイト,アラゴナイト)の中に記録された古地球環境の情報を読み取ることを目的として,珊瑚,洞窟生成物(鍾乳石,石筍)などに記録されている縞模様を電子スピン共鳴,リーザーラマン等により測定を進めた.その結果,以下に示すことが明らかになった. (1)奄美大島でボーリングして得られた珊瑚試料の電子スピン共鳴分析からは,C-14年代で2200yBP,4600yBP及び5460yBPに亜硫酸イオン濃度が異常に高くなったことが判明した.現生珊瑚では,ESR強度の年周期変動が認められるが,このような異常ピークは出現しない.したがって,このピークはその時代に環境中の亜硫酸イオン濃度が一時期的に異常上昇したためと考えられる.その原因としては,(1)火山活動,(2)比較的な大きな地殻変動,(3)異常気象などが考えられ,今後の研究でその原因を明らかにする必要がある. レーザーマラン測定からは,1085cm^<-1>のCO_3^<2->イオン面内全対称振動モードの散乱線強度が生成年代に応じて変化すること,その変動には極めて長い周期の変動成分と短周期の変動成分とが重なっていることなどがわかってきた.また,こうした変動は,光学顕微鏡で観察される縞模様とは必ずしも対応しておらず,光学顕微鏡では検出不可能な結晶成長速度の変化や微量不純物の取込み量変化などを反映していると考えてよい. 上記の実験結果から,炭酸カルシウム系の地質物質に記録された情報から,地球史のある断面(火山活動史,比較的大きな地殻変動史,異常気象史など)を読み取ることが可能でることが明らかになった.
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