本研究では異なるカチオンのタングステン酸塩の酸性化した水溶液を100〜200℃の温度範囲で高熱水中で反応させた時得られる生成物について検討した。特にこれまで殆ど研究されていない小さいイオン半径のLi^+塩の生成物について、その組成、結晶構造および構造中でのリチウムの拡散過程について検討した。 0.25M Li_2WO_4水溶液を0.5〜5NのHCl濃度の水溶液と100℃で混合し、10分間100℃で反応させたところ白色沈殿が得られた。0.5〜1Nの低いHCl濃度の場合、Li^+イオンをほとんど含まないヘキサゴナルブロンズ構造のWO_3・0.9H_2Oが得られた。これを350℃で加熱するとヘキサゴナルWO_3が生じた。Li^+塩を出発剤とする本反応はヘキサゴナルWO_3を合成する新しい合成方法である。一方2〜5Nの高いHCl濃度の場合、層状格子のタングステン酸、H_2WO_4が生じた。 さらに1M Li_2WO_4水溶液20mlを室温で1N HClで約pH1.5にした後、これをオートクレーブ中で150〜200℃にて約3日間反応させたところヘキサゴナルブロンズ構造を有するx(Li_2O)・WO_3・yH_2O (x=0.25〜0.30、y=0.6〜0.8)である。これを350℃で加熱処理すると無水のヘキサゴナル構造のxLi_2O・WO_3が生成した。 ヘキサゴナルWO_3中へのリチウム挿入の速度論を交流インピーダンス法により検討した。ヘキサゴナルタングステン酸化物中におけるリチウムの化学拡散係数および自己拡散係数(D_<Li>)をリチウム濃度の関数として測定した。これらの酸化物中の値は30℃で10^9cm^2/s代にみられ、これはx(A_2O)・WO_3 (A=Na^+、K^+)と近い。さらにこれらの値は単斜晶のWO_3中より2桁程高い。これのヘキサゴナル酸化物に於けるリチウム自己拡散係数D_<Li>は10^<-10>cm^2/s代であり、活性化エネルギーは20〜35KJ/molであった。
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