本研究は、これまでに得られているイオン伝導性高分子に関する知見を基礎とし、固体中で速いイオン移動が可能な高分子を電気化学的な反応場(高分子溶媒)として利用し、生体由来機能物質の電極反応を固相中で可能にさせ、その特性を引き出すための要件を整理することを研究目的とした。 まず、CDスペクトルを使用してヘムタンパク質のコンホメーションを詳細に解析した。その結果、PEO修飾したミオグロビンは緩衝液中では本来の3次元構造を取っていることが示唆され、PEO修飾が高次構造に何等影響を与えないことを認めた。次いでPEO中で同様に解析した結果、若干のαヘリックス含量の低下が認められたが、大差は無かった。しかも、昇温によりαヘリックス含量が低下するものの、降温すると完全に回復することを認め、これが、水中の非可逆的な変性とは大きく異なることを認めた。続いて、PEO中の電気化学的な還元反応について、特に電極界面での電子移動反応をサイクリックボルタンメトリー法から解析した。PEO中のヘムタンパク質は準可逆的に電子移動し、酸化還元活性を保っていることが明らかとなった。複素インピーダンス測定から求めた含塩PEOマトリックスのイオン伝導度とタンパク質の還元速度定数の相関を解析した結果、電極界面での電子移動反応は非常に速く、系の対イオンが充分に存在する時は、電子移動律速であった。一方、バルクに均一溶解しているヘムタンパク質への電子移動は、それらの拡散係数が大きく影響した。拡散係数は系のイオン伝導度にも影響するので、間接的ではあるが、イオン伝導度のより優れたマトリックスがより速い電子移動を可能にするものと推察できた。
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