研究概要 |
非局在電子を有するナノメートル金属粒子や多環芳香族分子系においては電子系の共鳴周波数に同期する外部電磁波を照射すると粒子の大きさを反映した巨大な振動双極子が生じる。この振動双極子は中性粒子間に働くファンデルワールス力と同様に粒子間に引力として作用する事が期待される。この引力は振動双極子の大きさが粒子のサイズを反映するため通常のファンデルワールス力と比べると数nmサイズの粒子ではゆうに数万倍に上り、かつ粒子間距離が数十nm以上からはたらく遠距離力である事が見いだされた(K.Kimura,J.Phys.Chem.98(1994)11997)。分子の立場で見るとこれは励起状態の物質と基底状態の物質間の相互作用とみなせる。この相互作用を励起状態での粒子間力ととらえ、更に詳細な理論的研究を進めこれを実験的に見いだすことが本研究の目的である。 本年度においては実験系として清浄な金属コロイドが得られるガス中蒸発法によるナノコロイド作成法としてガスフロー法を採用した。この方法はナノ粒子を分散させるのに界面活性剤やポリマーを必要としない今の所唯一のナノコロイド作成法である。大きさ8nmの金超微粒子の2-プロパノール分散系においては514.5nmのアルゴンイオンレーザー光照射により粒子が更に分散する傾向のある事が見いだされた。これは予想に反したことであった。分散と共に2-プロパノールからのアセトンとプロトンが生じ、電子が粒子に移行して粒子の電荷量が増加していることがゼータ電位の測定、紫外スペクトル、NMRの測定より分かった。すなわち本システムはコロイド系において帯電量が電子的な機構で決定されている極めて希なケースである。更に上記の系において粒子密度を更に高濃度で行ったところ理論予想の通りに凝集が進行した。粒子濃度に対するこの様な依存性はまだ正確には理解されていないが、一つには粒子間引力のおよぶ範囲の問題(高濃度では平均粒子間隔が短縮される)、または単純な温度効果による可能性もあり、今後の課題として残された。
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