「Cage 効果」とは、溶液中で分子が分解した際、それをとりまく溶媒によって、解離生成物が押し戻され再結合する現象である。本研究では、吸収スペクトルの測定による自己相関関数の決定と、解離フラグメントの空間分布測定による斬近状態の決定の両者により、クラスターのCage効果による共鳴波動関数を可視化することを目指したものである。平成7年度は、特に、後者に関する基礎研究を行った。N_2O、OCSなどの分子の光解離機構はRenner-Teller効果による電子状態の分裂によって、複数の電子遷移が重なり合ったり、励起状態間に非断熱遷移が起こり複雑である。そこで、生成物の三次元分布を二次元的に観測する光イオン化画像観測法を採用し、生成原子(酸素又は硫黄)の速度分布、角度分布、さらに角運動量ベクトルの整列状態分布を決定し、非断熱遷移を含む全動力学過程の解明を行った。N_2O分子の205nm光解離における並進エネルギー放出分布は、26kcal/mol付近にピークを持っており、かつ高、低エネルギー両側に肩を持つことがわかった。この結果は、先に報告されたHuberらの結果を支持する。OCSの223nm光解離では、並進エネルギー分布に二成分が存在し、HoustonらのVUV-LIFによるCOの観測と一致した。さらに、画像の詳細な解析の結果、低速の成分は軌道配向がなく、異方性因子はβ=1.8であること、高速の成分は軌道配向があり、かつβ=0.6、であることがわかった。前者の高い異方性は、光吸収に関与する励起状態がA'の対称性であることを示しているが、生成するS原子が軌道配向を持たないという事実は、解離過程において、A'とA"状態がCoriolis相互作用その他によって混じり合ってしまうことを示唆している。
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