研究概要 |
松重らは、本年度有機分子超構造の構造制御および評価法の開拓に努め、X線全反射現象を利用した多機能全反射X線回析計を製作すると共に、有機分子のエピタクシャル成長観察に成功した。SPM(捜査型プローブ顕微鏡)を用いた分子操作の可能性を示すものとして、AFM探針による分子結晶の整形を実現した。 一方、金藤らはSTM探針を用いて電極基板上にポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子のスポット電解重合を試みるとともに、重合される形状を計算によりシミュレーションした。その結果、探針と基板との距離が近いほど高分子のスポット径は小さく、距離が10μmの場合、スポット径は約30μmで計算値ともほぼ一致すること、また探針を重合中に走引することにより線引できることを見出した。 橋本らは高い磁気転移温度を持ち、かつその磁気的特性を外部からの摂動で制御可能な磁性材料の構築を目指し、プルシャンブルー類似物質のCN架橋クロム錯体に着目した。その結果、物質を薄膜状態で電極上に降出させ、270Kの磁気転移温度という、安定な分子磁性体としてはこれまで知られているものの中で最も高い転移温度を持つ物質を得ることに成功した。さらに電気化学的にイオンをド-ピング、脱ド-ピングさせ薄膜中の金属の電荷状態をコントロールすることにより物質の磁性をフェリ磁性と常磁性の間で可逆的に変化させることに成功した。 更に鷲津らは、微細加工技術により製作された電極中に作られる高周波高電界を用いてDNAを直線状に伸長し,かつ分子の両端のみで基板上に固定する手法を開発した。直径3マイクロメートル程度の微粒子表面にDNA切断酵素を固定し,これをレーザーマニピュレーションにより上記の固定化DNAに押し当てDNAの切断を観察した。このような手法は,生化学に空間分解能を導入するための有力な手段となることが期待される。
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