1.フタロシアニン(Pc)錯体の蒸着膜のエレクトロクロミズム(EC)特性は、中心金属に依存し、銅やニッケルのPc膜では、系に工夫を加えると可逆的なECを達成できるが、亜鉛、コバルト、鉄などのPc膜は不可逆なECしか示さない。しかし、これら不可逆なECを示すPcも可逆なECを示すPcと複合化して、共蒸着膜を作ると、EC特性を改善することができる。さらに、その酸化還元電位の順に、例えば、ITO/NiPc/ZnPcの順に並べると、積層膜内のホール輸送は順調に進み、両者のEC特性を観察できるが、逆にするとそうはならない。この事実は、「連続ポテンシャル場」の概念と一致するものである。 2.Pcの代わりに、ペリレンテトラカルボン酸(PTC)誘導体で積層蒸着膜を構成し、1項と同様の考え方で電子輸送制御を試みたが、予想通りには進まなかった。これはPTC膜間の酸化還元電位の差が少ないことと、PTC膜の結晶性が低いことが原因と考えられる。 3.CuPc蒸着膜をホール輸送層とし、アルミニウムキノリノール錯体(Alq_3)を組み合わせて、全固体型エレクトロルミネッセンス(EL)素子を構成したところ、CuPc薄膜を十分に薄くすると、輝度の高いEL発光を示した。このCuPcの代わりにZnPcとの積層蒸着膜を用いてITO/CuPc/ZnPc/Alq_3/Mg-Ag型の素子にすると、CuPc単独膜の場合よりも高い輝度を得た。逆に、CuPcとZnPcの順序を入れ替えると、輝度は下がった。これらの事実も「連続ポテンシャル場」の概念で説明できる。
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