ジアセチレン系高分子(ウレタン系Poly-4Un)の分子線エピタキシ-の研究を通して、分子系薄膜の配向性の制御について調べた。この物質は、光照射により相転移をおこすことが知られており、光スイッチやメモリー用材料としての可能性を秘めた機能性高分子材料である。 高分子薄膜の作製にあたって、まず通常の分子線エピタキシ-の手法を踏襲した。原料のPoly-4Unモノマーを充填したKセルを加熱し、セルより昇華したモノマーを基板上に堆積させて成膜を行った。原料は熱あるいは光照射により重合反応を起こすことが知られているため、堆積速度や配向性の制御を念頭に置いた場合、Kセル温度や基板温度を慎重に設定する必要がある。本研究では、別の蒸着装置を用いた実験により、あらかじめこれらのパラメータの大まかな範囲を調べた。その結果、原料は温度50-150℃の範囲で比較的安定で、かつ分子線エピタキシ-に適した蒸気圧を有することがわかった。実際の分子線エピタキシ-実験においても、Kセルの温度はこの範囲内で制御している。基板温度は100℃に固定した。実験中の反射電子線による表面観察では、堆積開始直後は結晶基板(例:GaAs(100))の回折パターンが消失する以外に特別な変化は認められないが、堆積を継続すると、原料モノマー薄膜に起因すると思われる間隔の狭いストリーク状の微弱な回折パターンが観察された。しかしながら、膜堆積後に紫外線(波長365nm)を照射して、光重合を行うとこのパターンは直ちに消失した。得られた膜は、Poly-4Un高分子膜の青色相に相当する透明な青色を呈しており、加熱(約200度)により赤色相に容易に転移する。走査電子顕微鏡による表面観察では、長さ数ミクロンの紡錘型ドメインが配向している領域とそうでない領域が明瞭に観測された。
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