本研究は、配列制御された超薄膜としての人工的光電子移動系を自己組織化的に電極表面上に構築するために要求される素構造の構造的ファクターを明らかにすることを目的とする。特に、光励起中心への電子移動方向自己制御能の賦与、反応場制御、メディエータの高速ターンオーバーの達成に主眼を置く。本年度は、(1)アルカンチオール自己組織化膜がどのような酸化還元反応場を与えるかの検討、(2)チオール分子の吸着により金電極上に構築した光電子移動系(光励起中心=ルテニウム錯体、メディエータ=ビオロゲン)のキャラクタリゼーション、および(3)超構造光電子移動系のための多電子高効率メディエータ薄膜の作製に関して研究を進めた。超薄膜の組織構造と動的挙動とを解析するための武器としてER法(電位変調紫外・可視反射分光法)を主に用いた。 主要な成果は以下のようである。 1.アルカンチオール自己組織化膜修飾電極における色素分子の電極反応をER法を用いて精査した結果、金電極上のアルカンチオール自己組織化膜は、イオン性の有機分子に対して超薄膜反応媒体を提供しつつ、有機分子の直接吸着を阻止することがわかった。 2.ブチルビオロゲンチオール吸着層をER法により測定した結果、還元体のうち60%がダイマーの状態で存在すること、および遷移モーメントの電極表面法線に対する角度75°で配向していることがわかった。 3.ブチルビオロゲンチオールとルテニウム錯体チオールとを共吸着させた金電極、前者がメディエータ、後者が光励起中心として働くことによる光電子移動が確認できた。 4.ヘミンと両刃配位子(両端にイミダゾール基をもつテレフタルアミド)との1:1の錯体の薄膜で修飾した電極の構築に成功した。
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