高い機能性を有する球状ファンデルワールス分子であるフラーレン分子の配列を制御し、新たな性質を出現することを目的とし、フラーレンの誘導体の薄膜中における分子配列配向に関する研究を行った。本年度は、フラーレン分子を代表するC60分子にベンゼン環を介して、末端にチオール基を持つアルキル鎖を縮合させた一連のC60の誘導体に関して研究を行った。この誘導体は、アルキル鎖の長さを変化させることによる分子配列の制御のみならず、ベンゼン環に配位する位置により、C60分子に体するアルキル鎖の伸びる方向を変化させることも可能であり、この点からも分子配列の制御が可能である。溶液における吸収スペクトルはベンゼン環の配位位置により大きく異なり、特にオルト誘導体においては、480nmのあたりにC60分子には観測されない強い吸収が観測された。そこで、このオルト誘導体のアルカリ基盤上への蒸着膜を作成し、その構造を電子顕微鏡とAFMにより観測した。一般に、アルキル基を有するC60誘導体は、昇華により分解しC60が生成するが、本研究で対象とした誘導体は、昇華において分解することなく、蒸着膜を作成することができた。これは、ベンゼン環を介してアルキル鎖を縮合しているためと考えられる。基盤温度により、蒸着膜における誘導体の分子配列は変化し、120゚C以下では、非晶質であった構造が、それ以上では、膜内においての結晶化が観測され、それに伴い、吸収スペクトルにおいても変化が観測された。構造の変化とスペクトルの変化の関係に関して現在検討中である。今後、アルキル鎖の長さの変化に伴う分子配列配向の変化に関しても研究を行う予定である。
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