研究概要 |
本年度は金属表面のモデル化合物として分子設計した三核のルテニウムペンタヒドリド錯体(Cp′Ru)_3(μ_3-H)_2(μ-H)_3 (Cp′=C_5Me_5)とシクロヘキサジエンとの反応を詳細に検討した。 錯体1は1,3-シクロヘキサジエンとは室温下で速やかに反応し、アリル位のC-H結合の切断を経て定量的にμ_3-n_2: n_2: n_2-ベンゼン錯体2を与える。錯体2のベンゼン還の三つのC-C二重結合はそれぞれのルテニウム中心にn_2-配位しているが、配位による結合交替は観察されなかった。フェリシニウム塩[(C_5H_5)_2Fe]PF_6を用いることによって錯体2を一電子づつ、段階的に酸化し、生成するカチオン性錯体の構造、特にベンゼンの配位様式をX線回折法で明らかにした。錯体2に1当量のフェリシニウム塩を作用させると常磁性の1価カチオン錯体3が定量的に得られ、錯体3さらに1当量のフェリシニウム塩を作用させるか、あるいは2を2当量のフェリシニウム塩で酸化すると反磁性の2価のカチオン錯体4が生成する。錯体2と3、あるいは3と4の間の変換は可逆的であり、4をナトリウムナフチリドで1電子還元、2電子還元することにより3、2が定量的に得られる。 単結晶X線構造解析により、カチオン錯体3においては、ベンゼンは中性錯体の場合とn_2: n_2: n_2-配位しているのに対して、2価のカチオン錯体4ではベンゼンは回転しn_3: n_3-配位していることを明らかにした。
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