本年度の研究では、個体の相互作用と分散のパターンによって空間構造がどう変化し、それによりどのような進化(遺伝子頻度の変化)が生じるかを解析し、これまでの進化理論(たとえば連続集団上での遺伝子頻度の変化モデル、集団選択モデル、血縁選択モデル)の予測と対比した。これまでの理論では個体の相互作用と移動分散(局所的相互作用)とグローバルな特性(空間構造、絶滅や再移住)を独立のパラメータとおいていた。しかし、現実には、局所的相互作用とグローバル特性の間には創発的な関係がある。そこで、個体の相互作用と繁殖、移動分散のルールを仮定し、空間構造などのグローバル特性は個体の繁殖と移動の結果であるという人工生命モデルを作成し、今回は特に集団選択のモデルについて検討した。これまでのモデルでは、創発的なレベル間の関係を仮定していなかったため、個体の分散距離が小さくなると遺伝子頻度の局所的な違いが増大し、集団選択の効果が大きくなると考えられていた。しかし、個体の分散の現象にともなって、局所的な密度の増加と再移住率の低下による遺伝子流入の低下が同時おこることになり、個体の分散距離が少なすぎても集団選択の効果が減少することが判明した。このことは、個体の移動や分散と局所的な相互作用が重要と考えられるプロセスでは、これまでの単純な集団遺伝モデルは適用できず、個体レベルと集団レベルとの複雑な創発的関係を考慮した人工生命シミュレーションが重要であると示唆された。今後は、本年度の研究をさらにすすめると同時に、扱う集団を群集レベルまでに拡張して行う予定である。さらに、プログラムを実行中にさまざまなデータを記録するという方法でレベル間のフィードバックの詳しいメカニズムを明らかにする予定である。
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