従来のシステム設計では人間が拘束条件を明示的に設定し機能を規定していた。しかしこのような設計原理に基づく限り、予測できない状況に柔軟かつ発展的に対応することはできない。一方、著者は生物的「創発性」に着目し、粘菌の走化性における環境適応的形態形成やラットの空間認知マップ生成機構を解析してきた。そして、振動子系におけるリズムの相互引き込みによる拘束条件の「自己言及的」創出の重要性を明らかにした。 そこで本研究課題では、この様な生命システムにおける創発現象の根源にある拘束条件の自己創出プロセスをモデル化し、さらに人工システムとしての創発的設計原理としての確立をめざした。具体的には、群ロボットシステムをモデル系として用い、大自由度分散系の設計における逆問題をこのような新しい視点から捉えなおすことを試みた。特に、歩行ロボット群において個々のロボットの歩行運動を一種のリズムと見なし結合振動子モデルを構成した。 その結果、歩行リズムの相互引き込みによって生成する位相勾配パターンが、個々のロボットとシステム全体との位置関係、さらに外部環境とシステムの関係を表現していることが明らかにされた。そして、個々のロボットはこの情報に基づいて拘束条件を自己生成し、システム全体としての機能を創発するように協調的に機能分散できることが示された。しかも、あらかじめ予測できない環境変化に対しても、状況に応じて拘束条件をリアルタイムに生成し自律的に対応できることを示した。具体的には、グループ編成の問題と協調的荷物運搬の問題に取り組んだ。
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